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退職・引き継ぎ

退職を引き止められたとき|第二新卒が角を立てずに断る順番と法的な線【2026年版】

木戸 悠介 なぜキャリア? 編集長 公開 2026年9月5日 読了 約17分
退職を引き止められたとき|第二新卒が角を立てずに断る順番と法的な線【2026年版】

〜引き止めは、あなたが評価されていた証拠です。ただし、受け入れる理由にはなりません〜

退職を伝えたら引き止められた。この状況で迷う人は多いです。

自分を必要としてくれているという嬉しさと、決めたはずなのに揺らいでいる自分への戸惑い。そして、断ることへの罪悪感。

まず知っておくべきことがあります。引き止めは、ほとんどの会社で行われる標準的な対応です。人が1人抜けると、採用と教育に数百万円のコストがかかります。引き止めるのは、あなたが特別だからではなく、経済的に合理的だからという側面もあります。

この記事では、引き止めのパターンごとの返し方と、受け入れるべき場合・断るべき場合の判断基準を書きます。

1. 結論:判断は3つで決まる

① 引き止めの内容が「口約束」なら、原則として断る

「来期には異動させる」「給与を見直す」——これらが口頭のみなら、実現は保証されません。書面で条件が提示された場合のみ、検討の対象になります。

② 退職理由が「変えられないもの」なら、引き止めでは解決しない

給与や配属は交渉で変わる可能性がありますが、事業内容そのものや業界の構造は、引き止めでは変わりません。自分の退職理由がどちらかを確認してください。

③ 一度受け入れた場合の、その後の立場を想像する

カウンターオファーを受け入れて残った人の多くが、1年以内に再び転職しているという実感を、多くの人事担当が持っています。理由は、根本原因が解決していないことと、「一度辞めようとした人」という見方が残ることの2つです。

2. 引き止めのパターン7つと、その意味

パターン実際の言葉の例何を意味するか
条件提示型「給与を見直す」「役職をつける」最も具体的。ただし書面かどうかが分かれ目
配置転換型「来期に異動させる」「担当を変える」実現時期と確度の確認が必要
情に訴える型「君がいないと困る」「裏切るのか」感情に働きかける。判断材料にはならない
将来提示型「あと1年でポジションが空く」確定していない話であることが多い
不安喚起型「転職先で通用するのか」「今は転職市場が厳しい」検証可能な話。自分で確認すればよい
保留型「もう少し考えてみて」「一旦預かる」時間を稼いで気持ちが変わるのを待つ
拒否型「認めない」「後任が決まるまで無理」法的には退職を拒否できない(第6章)

この7つのうち、検討に値するのは最初の2つだけです。それ以外は、条件が何も変わらないまま残ることを意味します。

そして、最初の2つについても「いつまでに、何が、どう変わるのか」が具体的に示されない限り、判断材料になりません。

3. 編集長の実体験:引き止めを受けて、断ったときの会話

私が第二新卒で退職を伝えたとき、直属の上司と、その上の部長の2人から引き止められました。

直属の上司との面談

上司「え、辞めるの? なんで?」

私「転職先が決まりまして。来月末で退職させていただきたいと思っています」

上司「ちょっと待って。何が不満だったの? 言ってくれれば対応できたのに」

私「不満というより、扱う商材の幅を広げたいと考えていまして。無形商材の営業をやりたいんです」

上司「うちでもそういう案件、増えていくと思うよ。もう少し待てば」

私「そのお話は前から伺っていまして、ありがたいのですが、時期が見えないので……」

上司「じゃあ部長にも話を通すから、それから決めてくれる?」

ここで私は「はい」と言ってしまいました。これが失敗でした。

その後、部長との面談が設定されるまでに10日かかりました。転職先には「来月末で退職予定」と伝えていたので、この10日は完全に無駄な時間でした。

部長との面談

部長「聞いたよ。何が足りなかった?」

私「(同じ説明)」

部長「来期の組織で、新規事業の部署を作る話があるんだ。そこなら君のやりたいことに近い」

私「それは、いつ頃決まる話でしょうか」

部長「……まあ、まだ確定じゃないけどね。年明けには方向性が出ると思う」

私「ありがとうございます。ただ、転職先の入社日も決まっておりまして、予定通り退職させていただきたいです」

部長「そうか。分かった」

あっけないほど普通に終わりました。

ここで学んだことは2つあります。

教訓1:「考えます」と言わない。私が「はい、考えます」と答えたせいで10日を失いました。最初から「退職の意思は変わりません」と伝えていれば、その日のうちに終わっていました。

教訓2:引き止めの内容は、必ず「いつ・何が・どう変わるか」を聞く。「新規事業の部署ができるかもしれない」は、聞いた瞬間は魅力的に聞こえます。でも「いつ決まるか」と聞いた瞬間に、それが確定していない話だと分かりました。この質問1つで、判断材料が揃います。

4. パターン別・角を立てない返し方

条件提示型(給与・役職)

上司「給与を見直すことは可能だと思う。いくらなら残ってくれる?」

返し方

「ありがとうございます。ただ、退職を決めた理由は給与ではなく、◯◯の経験を積みたいという点にあります。金額の問題ではないため、予定通り進めさせていただきたいです。」

金額の話に乗らないことが重要です。「いくらなら」に答えると、交渉が始まってしまいます。退職理由が給与でないなら、そこを明確にしてください。

配置転換型(異動・担当変更)

上司「来期に異動させることを考えている。それでも辞める?」

返し方

「ご検討いただきありがとうございます。恐れ入りますが、その異動は現時点で確定しているものでしょうか。また、時期はいつ頃を想定されていますか。」

(確定していない場合)

「ありがとうございます。確定していない段階でご配慮いただいたことは大変ありがたいのですが、転職先の入社日も決まっているため、予定通りとさせてください。」

「確定しているか」「いつか」の2つを必ず聞いてください。この2つに具体的な答えが返ってこない場合、それは検討の対象になりません。

情に訴える型

上司「今のタイミングで抜けられると本当に困る。裏切られた気分だ」

返し方

「ご迷惑をおかけすることは承知しております。引き継ぎについては、残りの期間で可能な限り整理させていただきます。引き継ぎ資料も作成しますので、必要な範囲をお知らせください。」

感情に対しては、感情で応じず、実務で応じてください。「申し訳ありません」を繰り返すと会話が終わりません。「引き継ぎで貢献します」に話を移すのが、最も収まりが良いです。

不安喚起型

上司「今の転職市場は厳しいぞ。うちより良い会社なんてそうないよ」

返し方

「ご心配いただきありがとうございます。転職先については十分に確認したうえで決めましたので、大丈夫です。」

反論する必要はありません。「大丈夫です」で終わらせてください。転職先の詳細を説明すると、そこへの批評が始まり、話が長引きます。

保留型

上司「一旦預かるから、もう少し考えてみて」

返し方

「ありがとうございます。ただ、転職先の入社日が◯月◯日で決まっているため、◯月◯日までに退職日を確定させたいと考えています。本日、退職届をお渡ししてもよろしいでしょうか。」

これが最も重要な返しです。「考えます」と言うと、時間だけが過ぎます。期限を提示し、退職届を出すところまで進めてください。

5. カウンターオファーを受け入れるべき場合

すべての引き止めを断るべきというわけではありません。次の3条件が揃った場合のみ、検討する価値があります。

条件確認すること
書面で提示されている給与改定通知、異動の内示など、口約束でない
退職理由が解決する内容である「給与が理由」なら給与改定は有効。「事業内容が理由」なら無効
実現時期が明示されている「来期」ではなく「◯月◯日付で」

この3つが揃うことは、実際にはそう多くありません。特に1番目の「書面」が揃うケースは限られます。

さらに、受け入れる前に考えるべきこと

  • 他の社員から見て、どう映るか。「辞めると言えば条件が上がる」という前例になり、社内での立場が微妙になる場合があります
  • 次の評価・昇進で、どう扱われるか。「一度辞めようとした人」という記録は残ります
  • 転職先への断りをどうするか。内定を受諾した後の辞退は、相手企業に大きな迷惑をかけます。エージェント経由の場合、以降の利用に影響する可能性もあります

3番目は特に重要です。内定承諾後に辞退すると、その企業とエージェントの双方に対する信頼を失います。引き止めの検討は、内定を承諾する前に済ませておくのが理想です。

6. 退職を拒否された場合

「退職は認めない」と言われた場合の扱いです。

法的な原則

期間の定めのない雇用契約(正社員の一般的な形)では、退職の意思表示から2週間が経過すれば、雇用契約は終了します(民法第627条第1項)。会社の承認は必要ありません。

つまり、「退職を認めない」という会社の意思表示に、法的な効力はありません。

実務上の進め方

状況対応
口頭で伝えたが受理されない退職届を書面で提出する。日付を記録する
退職届を受け取ってもらえない内容証明郵便で人事宛に送付する
「後任が決まるまで」と言われる就業規則の退職申出期限(多くは1ヶ月前)に従えば足りる
損害賠償をちらつかされる通常の退職で損害賠償が認められることはまずない
有給消化を拒否される時季変更権はあるが、退職日以降に変更はできない

相談先

会社との話し合いで解決しない場合、各都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」に無料で相談できます。予約不要で、労働基準監督署内などに設置されています。

退職代行サービスについて

最終手段としては選択肢になりますが、まずは書面での退職届提出を試してください。多くのケースは、書面を出した時点で進みます。

7. 引き止められないための伝え方

そもそも引き止めが長引かないようにする伝え方があります。ポイントは3つです。

ポイント1:「相談」ではなく「報告」として伝える

✕ 「転職を考えているのですが、どう思われますか」

○ 「退職させていただきたく、ご報告に参りました」

相談の形で伝えると、引き止めは当然の反応になります。決定事項として伝えてください。

ポイント2:転職先が決まっていることを伝える

「転職先が決まっており、◯月◯日入社の予定です」

これがあると、引き止めの余地が大きく減ります。逆に、転職先が決まっていない段階で伝えると、引き止めが長期化しやすくなります。

ポイント3:退職希望日を具体的に示す

「◯月◯日をもって退職させていただきたいと考えております」

日付を出すと、話が「辞めるかどうか」から「いつ・どう引き継ぐか」に移ります。これが最も効果的です。

8. 面談当日の進め方

段階やること
事前退職届を作成して持参する(渡すかは状況次第)
冒頭「退職させていただきたく、ご報告に参りました」と結論から
理由前向きな理由を簡潔に。会社批判は避ける
日付希望退職日を提示する
引き止め第4章の返し方で応じる。「考えます」は言わない
締め「引き継ぎは責任を持って行います」で終える
事後その日のうちに、面談内容と決まったことをメモに残す

「その日のうちにメモを残す」を必ず行ってください。「言った・言わない」が後で問題になるのを防げます。特に、退職日の合意内容と、有給消化の扱いは記録してください。

所要時間は30分程度が標準です。1時間を超える場合、話が引き止めの方向に流れています。「本日はお時間をいただきありがとうございました。あらためて退職届をお持ちします」と切り上げて構いません。

9. よくある質問

引き止められて心が揺らいでいます。異常ですか?

まったく普通です。評価されていたことが分かる場面なので、揺らぐのは自然な反応です。判断が揺れているときは、退職を決めた理由を書いた紙を読み返してください。感情ではなく、書き出した理由で判断すると、最初の結論に戻ることがほとんどです。

「考えます」と言ってしまいました。取り消せますか?

取り消せます。翌日以降に、あらためて「検討しましたが、退職の意思は変わりません」と伝えてください。むしろ、一度考えたうえでの結論として伝わるため、その後の引き止めは弱まります。

給与を上げると言われました。受けてもいいですか?

退職理由が給与だった場合のみ、検討の余地があります。ただし、①書面で提示されているか、②いつから適用されるか、③次の昇給や評価にどう影響するか、の3点を確認してください。口約束の場合は、原則として断ることを勧めます。

内定を承諾した後に、引き止めを受け入れてもいいですか?

強く勧めません。内定承諾後の辞退は、企業に採用計画の変更を強いることになり、エージェント経由の場合は以降の利用にも影響します。引き止めの可能性がある場合、内定を承諾する前に退職の意思を伝えるという順序も検討してください。ただし、その場合は転職先が確定しないまま退職交渉を進めることになるため、リスクの取り方の問題になります。

「損害賠償を請求する」と言われました。

通常の退職で損害賠償が認められることは、実務上ほぼありません。労働者には退職の自由があり、就業規則や法の定めに従った手続きで退職している限り、賠償責任は生じないのが原則です。不安な場合は、総合労働相談コーナーに相談してください。

後任が決まるまで辞められないと言われました。

後任の採用は会社の責任であり、退職の条件にはできません。就業規則で定められた申出期限(多くは1ヶ月前)を守っていれば、退職は可能です。ただし、実務上の配慮として、引き継ぎ資料を丁寧に作成しておくと、話が円滑に進みます。

有給消化を認めてもらえません。

有給休暇の取得は労働者の権利です。会社には時季変更権がありますが、退職日以降に変更することはできません。したがって、退職日までの期間に有給が残っている場合、実質的に拒否できません。話し合いで解決しない場合、労働基準監督署に相談できます。

引き止められなかったのですが、評価されていなかったということですか?

そうとは限りません。引き止めをしない方針の会社もありますし、上司の性格や、部署の状況によっても対応は変わります。むしろ、引き止めをせずに送り出す会社のほうが、退職者との関係が良好に終わることが多いという側面もあります。気にする必要はありません。

10. まとめ:今夜やる3つのこと

引き止めは、想定しておけば怖くありません。返し方が決まっていれば、その場で迷わずに済みます。

今夜やること

① 退職を決めた理由を3つ、紙に書いておく(引き止めで揺らいだときに読み返すため)

② 面談で言うことを1文だけ決める(「◯月◯日をもって退職させていただきたく、ご報告に参りました」)

③ 第4章の返し方から、自分の会社で言われそうなパターンを2つ選んで、返しを声に出して読む

②の1文が最も重要です。この1文を最初に言い切れるかどうかで、面談の流れが決まります。「相談」ではなく「報告」として、結論から伝えてください。

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この記事を書いた人

木戸 悠介(きど ゆうすけ)/なぜキャリア?運営者。

23歳で上場企業子会社に新卒入社し、飲食・宿泊・レジャー領域のメディア広告営業を担当。25歳で第二新卒として障がい福祉領域のSaaS企業へ転職し、営業から営業企画へ職種を変えた経験を持つ。2ヶ月で10社に応募し2社から内定。現在は自分の会社を経営している。