取引先の引き継ぎ|後任への渡し方と挨拶の順番【2026年版】
営業や顧客対応を担当していた場合、退職時には社内の引き継ぎだけでなく、取引先への引き継ぎが必要になります。
社内の引き継ぎと違い、こちらは相手が自分の会社の人ではないという難しさがあります。タイミングを間違えると、取引先に不安を与えたり、後任が入りにくくなったりします。
そして、この引き継ぎのやり方は、退職後の自分にも返ってきます。同じ業界に転職すれば、数年後に取引先として再会することがあります。
この記事では、後任への情報の渡し方、挨拶の順番、文面、そして転職先を聞かれたときの答え方を整理します。
1. 結論:順番は3つ
①後任が決まってから動く。後任が決まる前に取引先へ伝えると、「担当が不在になる」という不安だけが残ります。
②後任と一緒に伝える。メールでも訪問でも、後任の名前と連絡先を同時に出します。
③自分の連絡先は渡さない。渡すと、退職後も連絡が来ます。窓口は後任に一本化してください。
「担当が変わります」ではなく「〇〇が担当します」と言えるかどうかで、取引先の受け止め方が変わります。
2. 全体の流れ
| 時期 | やること |
|---|---|
| 退職の1か月半前 | 上司と、後任と引き継ぎの範囲を決める |
| 1か月前 | 取引先ごとの引き継ぎ資料を作成 |
| 3〜4週間前 | 後任に説明。同席の予定を組む |
| 2〜3週間前 | 主要な取引先へ、後任と一緒に挨拶 |
| 1〜2週間前 | 残りの取引先へメールで連絡 |
| 最終出社日 | 社内の窓口情報を整理して残す |
訪問が必要なのは、取引額が大きい先と、関係が深い先だけです。全社を回る必要はありません。
訪問とメールの分け方
| 取引先 | 方法 |
|---|---|
| 定期的に訪問していた先 | 後任と一緒に訪問 |
| 電話・メール中心の先 | メールで連絡。必要なら後任が電話 |
| 案件が進行中の先 | 必ず訪問。進行中の内容を対面で共有 |
| 取引が止まっている先 | メールのみ |
案件が進行中の先は、必ず対面で引き継いでください。メールだけだと、経緯が伝わりません。
3. 編集長の実体験:先に言ってしまった
私が前職を辞めるとき、担当していた取引先は20社ありました。
後任が決まる前に、関係の深い1社にこう言ってしまいました。
私「実は、来月末で退職することになりまして」
先方「え、そうなんですか。次の担当の方は」
私「まだ決まっていないんです」
先方「……いつ決まりますか」
この会話の後、先方から上司に問い合わせが入りました。
上司「〇〇社さんから、担当変更の件で連絡があったよ。まだ後任が決まっていないのに、なぜ先に言ったの」
私「関係が長かったので、早めに伝えたほうがいいと思って」
上司「気持ちは分かるけど、先方は『放り出される』と受け取るよ」
誠実さのつもりでしたが、逆効果でした。
2週間後、後任が決まりました。改めて、後任と一緒に訪問しました。
私「後任の〇〇です。〇月から担当させていただきます」
後任「〇〇です。木戸から経緯は聞いております。〇〇の件は、来月の納品まで責任を持って進めます」
先方「そうですか。よかった、安心しました」
同じ「担当が変わる」という話でも、後任がいるかどうかで受け止め方がまったく違いました。
その後、私は同じ業界に転職しました。3年後、その取引先の担当者と別の場面で再会しました。
先方「木戸さん、あのとき後任の方をきちんと連れてきてくれましたよね」
覚えられているのは、最後の対応です。
4. 後任に渡す情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基本情報 | 会社名、担当者名、役職、連絡先 |
| 取引の内容 | 何を、どのくらいの頻度で |
| 過去の経緯 | 過去のトラブルとその対応 |
| 進行中の案件 | 現在の状況と、次にやること |
| 関係性 | どういう頼み方が通るか、避けるべき話題 |
| 訪問の頻度 | どのくらいの間隔で連絡していたか |
| 決裁の流れ | 誰が決めるか |
最も価値があるのは「過去の経緯」と「関係性」です。この2つは資料に残っていないことが多く、担当者しか知りません。
関係性の書き方
抽象的にならないよう、具体的な出来事で書いてください。
「〇〇様は、事前に資料を送ってから訪問すると話が早い。当日に資料を出すと、その場では判断されない。
2025年5月に納期が遅れた件があり、その際は事前連絡が遅かったことを指摘された。以降、進捗は週次で報告している」
過去のトラブルは必ず書いてください。知らずに同じことをすると、後任が信頼を失います。
資料は、後任が読むものであると同時に、その次の担当者も読むものです。固有名詞と日付を省略しないでください。
5. そのまま使えるメール文面
後任と一緒に送る場合:
件名:担当変更のご挨拶(株式会社〇〇 〇〇)
株式会社〇〇 〇〇様
いつもお世話になっております。株式会社〇〇の〇〇です。
私事で恐縮ですが、〇月〇日をもちまして退職することとなりました。在任中は大変お世話になり、ありがとうございました。
後任は、同じ部署の〇〇が務めます。〇〇には、これまでの経緯と進行中の案件について引き継いでおります。
〇〇の連絡先は下記の通りです。 (メールアドレス) (電話番号)
引き続き変わらぬお付き合いをいただけますと幸いです。
改めまして、これまでのご厚情に深く感謝申し上げます。
後任からの挨拶(同日または翌日に送る):
株式会社〇〇 〇〇様
お世話になっております。〇〇の後任として担当いたします〇〇と申します。
〇〇より、これまでの経緯を引き継いでおります。進行中の〇〇の件につきましては、〇月〇日の納品に向けて予定通り進めております。
ご不明な点がございましたら、いつでもご連絡ください。近日中にご挨拶に伺えればと存じます。
2通をセットで送ると、取引先の不安がほぼ解消されます。
送る順番
- 関係の深い先に、先に訪問または電話
- その他の先に、メールで一斉ではなく個別に送信
- 後任からの挨拶を、同日か翌日に
一斉送信は避けてください。宛名が入っていないだけで、扱いが軽く見えます。
なお、退職の連絡は、こちらから出す前に取引先に伝わっていることがあります。業界内で人の異動の話は早く回るため、先方が先に知っている前提で構えておいてください。その場合も、後任を紹介する形は変わりません。
6. やってはいけない5つ
| 行動 | 何が起きるか |
|---|---|
| 後任が決まる前に伝える | 「放り出される」と受け取られる |
| 自分の私用の連絡先を渡す | 退職後も業務の連絡が来る |
| 転職先を伝える | 前職と現職の双方で問題になる可能性 |
| 退職理由を詳しく話す | 会社への不満が取引先に伝わる |
| 引き継ぎ資料を作らずに口頭だけで済ます | 後任が対応できず、取引先に迷惑がかかる |
3番目は特に注意してください。同業に転職する場合、取引先に転職先を伝えると、後から営業をかけたと受け取られる可能性があります。
2番目も避けてください。親しくしていた相手ほど渡したくなりますが、渡すと窓口が二重になります。後任が入りにくくなり、退職後も連絡が続きます。
転職先を聞かれたときの答え方
「同じ業界の会社に移ります。詳細は控えさせていただきますが、これまでのご縁には感謝しております」
これで十分です。しつこく聞かれても、同じ答えを繰り返してください。
同席する訪問での話し方
同席する訪問では、話す時間の配分を意識してください。自分が7割話すと、後任が紹介されただけの人になります。
進め方は次の通りです。最初の5分で自分が退職と後任の紹介をし、そこから先は後任が話す。取引先の質問には、後任が答えられるものは後任に答えてもらってください。
答えられない質問が出たときだけ補足します。この形にすると、取引先は「この人に聞けばいい」と理解します。
7. 引き継ぎ後のトラブルを防ぐ
| 対策 | 内容 |
|---|---|
| 資料に索引を付ける | 後任が探せる形にする |
| 進行中の案件は期日を明記 | いつ何をするかを一覧に |
| 過去のトラブルを必ず書く | 同じことを繰り返させない |
| 決裁者を明記する | 誰に話せば決まるかを残す |
| 引き継ぎ後1〜2週間は社内で対応可能にする | 質問に答えられる状態にしておく |
最後の項目が効きます。最終出社日までの1〜2週間、後任からの質問に答えられる状態にしておくと、退職後の連絡が減ります。
退職後に連絡が来た場合は、後任か社内の窓口に回してください。個別に対応すると、それが前提になります。
引き継ぎの資料は、社内の共有フォルダに置いてください。後任だけに渡すと、その後さらに担当が変わったときに失われます。
8. 進め方と時間配分
| 段階 | 時間 | やること |
|---|---|---|
| 取引先の一覧化 | 60分 | 全社を書き出し、対応方法を分類 |
| 資料の作成 | 1社30分 | 経緯・関係性・進行案件を記録 |
| 後任への説明 | 1社20分 | 資料を見ながら口頭で補足 |
| 訪問 | 1社1〜2時間 | 主要な先のみ |
| メールの送信 | 1社10分 | 個別に宛名を入れて送信 |
20社なら、資料作成に10時間、訪問に5社で10時間ほどです。1か月前から始めれば間に合います。
9. よくある質問
後任が決まらないまま最終出社日が来そうです
資料を完成させて上司に渡してください。取引先への連絡は、後任が決まってから会社側が行う形になります。自分から先に伝えないでください。
取引先に個人的に感謝を伝えたいです
会社の窓口として送る挨拶メールの中に、一文入れるだけにしてください。私用の連絡先を渡す形は避けてください。
全社を訪問すべきですか
必要ありません。取引額が大きい先、案件が進行中の先、定期的に訪問していた先に絞ってください。それ以外はメールで足ります。
取引先から「あなたに担当してほしい」と言われました
後任を紹介する形で応じてください。「〇〇が責任を持って担当します。私からも経緯はすべて伝えてあります」と伝えます。個人的な対応は約束しないでください。
転職先の会社と取引がある場合はどうしますか
転職先の上司に、先にその事実を伝えてください。前職との関係で配慮が必要な場合があります。自分だけで判断しないでください。
退職後に取引先から直接連絡が来ました
後任か、前職の窓口に回してください。「退職しておりますので、〇〇にご連絡いただけますでしょうか」で十分です。
引き継ぎ資料はどのくらいの分量が必要ですか
1社あたり1ページで足ります。基本情報、取引内容、経緯、進行中の案件、関係性の5項目です。長すぎると読まれません。
同業に転職する場合、競業の問題はありませんか
就業規則や誓約書を確認してください。取引先への営業活動が制限される場合があります。判断に迷う場合は、労働相談の窓口などで確認してください。
10. まとめ:今週やる3つのこと
取引先の引き継ぎで最も重要なのは、後任と一緒に伝えることです。順番を守れば、大半の問題は起きません。
1. 取引先の一覧を作り、対応方法を分類する。訪問するのか、メールで足りるのか。20社あっても、訪問が必要なのは5社程度です。
2. 1社あたり1ページの資料を作る。基本情報、取引内容、過去の経緯、進行中の案件、関係性。「過去のトラブル」を必ず入れてください。
3. 後任が決まるまで、取引先には伝えない。先に伝えると、不安だけを残すことになります。
最後の対応は、数年後に返ってきます。同じ業界で働き続けるなら、なおさらです。
この先、読むべき記事
- 退職の挨拶|第二新卒の社内・社外への伝え方と例文全文(挨拶の文面)
- 退職の引き継ぎ資料の作り方|そのまま使えるテンプレートと3時間で終わらせる手順(資料の作り方)
- 後任がいないときの引き継ぎ|第二新卒が残す順番と割り切り方(後任不在の場合)
- 退職を伝えた後の過ごし方|最終出社までの1〜2か月(最終出社までの動き)
- 競業避止義務はどこまで効くのか|同業に転職する前の確認手順(同業転職の確認)
- 取引先に転職していいのか|第二新卒が確認する4点と伝える順番(取引先に転職する場合)
この記事を書いた人
木戸 悠介(きど ゆうすけ)/なぜキャリア?運営者。1996年生まれ、神戸市出身。
23歳で上場企業子会社に新卒入社し、メディア広告営業を担当。25歳で第二新卒として障がい福祉領域のSaaS企業へ転職し、営業から営業企画へ職種を変えた。2ヶ月で10社に応募し2社から内定。その後スタートアップに3人目の社員として参画し、現在は自分の会社を経営している。