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競業避止義務はどこまで効くのか|同業に転職する前の確認手順【2026年版】

木戸 悠介 なぜキャリア? 編集長 公開 2026年9月5日 読了 約15分
競業避止義務はどこまで効くのか|同業に転職する前の確認手順【2026年版】

退職の意思を伝えたあとに「うちは競業避止の誓約書があるから、同業には行けないよ」と言われて、内定を辞退しようか悩む。この相談は、実際に一定数あります。

先に前提を書きます。この記事は一般的な整理であり、個別の契約内容についての判断はできません。誓約書の文面や退職時の状況によって結論は変わるため、実際に問題になりそうな場合は弁護士や労働局などの専門機関に確認してください。

その上で、確認の順番と、確認すべき箇所を整理します。慌てて内定を辞退する前に、読める部分は自分で読めます。

1. 結論:確認するのは3か所だけ

誓約書や就業規則を見るとき、目を通す箇所は3つです。

1か所め、そもそも競業避止の条項があるか。「ある」と言われても、実際には入社時の誓約書に書かれていないケースがあります。まず現物を確認します。

2か所め、制限の範囲がどう書かれているか。期間、地域、対象となる業務。ここが無限定に書かれているほど、実際には効きにくいと一般に整理されています。

3か所め、代償措置があるか。制限を課す見返りとして、手当や退職金の上乗せがあったかどうか。何の見返りもなく職業選択を制限する条項は、一般的に有効性が問題になりやすいとされています。

この3か所を確認すれば、少なくとも「言われたことを鵜呑みにして内定を辞退する」という事態は避けられます。

2. 一般的に問題になりやすい条項の形

裁判例などで有効性の判断材料とされてきた要素を、一般的な整理として表にします。個別の判断ではありません。

要素制限が認められやすい方向認められにくい方向
期間半年〜1年程度3年以上、期間の定めなし
地域特定の営業エリアに限定全国、限定なし
対象業務具体的な業務・顧客に限定「同業他社すべて」
対象者経営幹部、営業秘密に触れる立場全従業員一律
代償措置手当・退職金の上乗せがある何もない
守る利益具体的な営業秘密・顧客情報「ノウハウ全般」

第二新卒が該当しやすいのは、下から3行目です。入社1〜3年で、全従業員に一律で署名させている誓約書に、経営幹部と同じ制限がかかっている形。この場合、実際に制限が及ぶ範囲は限定的に解釈されることが一般的とされています。

繰り返しますが、これは一般的な傾向の整理で、個別の判断は専門機関の領域です。

3. 編集長の実体験:誓約書に条項がなかった話

以前、同業に転職しようとしていた方から相談を受けたことがあります。

相談者「上司に『競業避止があるから同業はダメ』って言われて」

私「誓約書、手元にありますか」

相談者「入社のときに書いた気はするんですけど、控えは……ないです」

私「人事に控えをもらえますか。自分がサインした書類なので」

相談者「聞いていいものなんですか」

数日後、人事から控えを受け取った結果、その誓約書に競業避止の条項はありませんでした。書かれていたのは、秘密保持の条項だけでした。

相談者「上司は何を根拠に言っていたんでしょう」

私「たぶん、就業規則に書いてあると思い込んでいたか、引き止めのつもりだったかのどちらかです」

言われた側は確認できない前提で話が進むのが、この論点の怖いところです。自分がサインした書類の控えは、請求できます。まずそこからです。

4. 確認の手順と伝え方

手順1、入社時の書類を探す。自宅の書類、入社時のメール添付、社内の人事システム。この3か所のどこかにあります。

手順2、なければ人事に控えを請求する。伝え方の例を挙げます。

「入社時に提出した誓約書の控えをいただけますでしょうか。手元で保管できていないため、内容を確認しておきたく思います。」

理由を細かく説明する必要はありません。自分が署名した書類の内容を確認したいというだけで十分です。

手順3、就業規則の該当箇所を確認する。就業規則は従業員が閲覧できる状態にしておくものとされています。社内の共有フォルダや、人事に閲覧を申し出れば見られます。

手順4、条項があった場合、第1章の3か所を読む。期間・範囲・代償措置。ここをメモに書き出します。

手順5、判断に迷ったら専門機関に相談する。都道府県の労働局の総合労働相談コーナー、法テラス、弁護士。無料で相談できる窓口があります。

秘密保持義務との違い

競業避止義務と混同されやすいのが秘密保持義務です。まったく別のものなので、分けて理解してください。

項目競業避止義務秘密保持義務
制限するもの同業他社への就職・起業情報の持ち出しと利用
期間退職後の一定期間(定めによる)期間を定めないことも多い
争点になりやすい点職業選択の自由との関係何が秘密情報にあたるか
第二新卒での影響限定的に解釈されることが多い立場に関係なく及ぶ

注目したいのは最後の行です。競業避止のほうは立場や職務内容によって評価が変わりますが、秘密保持は第二新卒でも同じように及びます。

具体的には次のようなものが該当し得ます。

  • 顧客の名簿、連絡先、取引条件
  • 見積書、契約書、価格表
  • 社内の手順書、マニュアル、設計資料
  • 業績や計画に関する非公開の数字

「自分が作った資料だから持ち出していい」は通りません。業務で作成したものは、原則として会社に帰属します。転職先で使いたい場合は、自分の頭の中にある一般的な知識と経験だけを持っていく、という線引きになります。

退職時に貸与品を返却する際、私物のPCやクラウドストレージに業務データが残っていないかも確認してください。意図せず残っていることがあります。

5. 転職先に伝えるかどうか

これは実務上よく迷う点です。

誓約書に競業避止の条項があると分かっている場合、転職先に伝えておくほうが安全です。理由は2つあります。

1つめは、入社後に前職から連絡が行った場合、転職先が状況を把握していないと対応が難しくなるためです。

2つめは、転職先が同種の業界であれば、この論点に慣れている可能性が高いためです。「その条項の範囲なら問題ない」という判断を、法務部門が持っていることがあります。

伝え方の例です。

「前職の入社時に誓約書を提出しており、退職後1年間の競業避止の条項が含まれています。対象は前職で担当していた特定の顧客に限定された書き方になっていますが、念のため共有させていただきます。」

条項の有無と、その範囲の2つを事実として伝えれば十分です。自分で有効・無効の判断を語る必要はありません。

6. やってはいけない3つのこと

1つめ、前職の顧客リストや資料を持ち出す。競業避止の論点とは別に、秘密保持義務の問題になります。ここは条項の有効性に関係なく明確です。データも紙も、持ち出さないでください。

2つめ、在職中に前職の顧客へ転職先を案内する。これも別の問題になります。退職後も、前職の顧客への接触は慎重に判断してください。

3つめ、確認せずに内定を辞退する。「同業はダメと言われたから」だけで辞退するのが、一番もったいない選択です。第4章の手順1と2は、数日で終わります。

やることやってはいけないこと
誓約書の控えを請求する上司の口頭の説明だけで判断する
就業規則を確認する会社の資料を持ち出す
転職先に条項の有無を伝える前職の顧客に自分から接触する
判断に迷えば専門機関に相談する自己判断で「無効だから大丈夫」と決める

誓約書に署名を求められたときの確認箇所

退職手続きの中で、あらためて誓約書への署名を求められることがあります。その場で読むべき箇所を挙げます。

確認1、期間の記載。「退職後1年間」なのか、期間の定めがないのか。定めがない条項は、有効性が問題になりやすいとされています。

確認2、範囲の記載。「同業他社」とだけ書かれているか、「在職中に担当した顧客」のように限定されているか。限定されているほうが、実際に守れる範囲も明確になります。

確認3、違約金の記載。違反した場合に金銭の支払いを定める条項がある場合、その金額と条件を確認してください。ここは特に慎重に読む箇所です。

確認4、退職金との関係。「違反した場合は退職金を返還する」といった条項があるかどうか。

その場で署名する必要はありません。「持ち帰って確認します」と伝えてください。断るのが難しく感じるなら、「内容を家族にも見せたいので」と言えば十分です。

確認箇所見るポイント
期間具体的な年数が書かれているか
範囲業務・顧客・地域が限定されているか
違約金金額と発生条件
退職金返還条項の有無

内容に疑問がある場合は、署名前に労働局の相談窓口や弁護士に確認してください。署名後より、署名前のほうが選択肢が多く残ります。

7. 退職を伝えるときの3つの想定質問

Q「転職先はどこですか」

答える義務はありません。ただし、同業であることを隠して後から知られると、関係が悪くなります。

回答例:「同じ業界の会社です。社名は、先方の了承を得てからお伝えできればと思います。」

Q「競業避止の誓約書があるのは分かっていますか」

回答例:「入社時の書類を確認したいので、控えをいただけますでしょうか。内容を確認した上で、必要であれば転職先にも共有します。」

この場で議論しないのがコツです。書類を見てからにする、と一度引き取ります。

Q「同業に行くなら退職金は出せない」と言われたら

退職金の支給条件は就業規則に定められています。口頭の通告ではなく、規程のどの条項に基づくのかを確認してください。それでも納得できない場合は、労働局の相談窓口が使えます。

8. 進め方と時間配分

手順やること目安時間
1日目自宅と社内システムで入社時の書類を探す1時間
2日目見つからなければ人事に控えを請求メール1通
3〜5日目就業規則の該当箇所を確認1時間
控えが届いたら期間・範囲・代償措置の3点をメモ30分
迷う場合労働局の相談窓口などに相談1回1時間程度
並行転職先に条項の有無を共有メール1通

全部で1週間程度です。内定の返答期限が2週間あるなら、十分間に合います。期限が迫っている場合は、転職先に「前職の書類確認のため、返答を数日延ばしたい」と伝えることもできます。

9. よくある質問

誓約書にサインした記憶がない場合はどうなりますか

人事に控えを請求してください。署名した書類が存在しなければ、少なくとも個別の誓約はないことになります。就業規則に定めがある場合は別に確認が必要です。

就業規則に書いてあるだけでも効力はありますか

一般的には、就業規則の定めも根拠になり得るとされています。ただし範囲や代償措置の有無によって評価は変わるため、個別の判断は専門機関に確認してください。

実際に訴えられることはありますか

第二新卒の一般的な職務内容で訴訟に至る例は多くないとされています。ただしゼロではなく、営業秘密の持ち出しが絡む場合は別問題です。

期間はいつから数えますか

一般的には退職日からです。誓約書に開始時点の定めがある場合はその記載に従います。

転職先が同業かどうかの線引きが分かりません

誓約書に業務の範囲が具体的に書かれていれば、それが基準になります。「同業他社」とだけ書かれている場合、範囲の解釈が争点になるため、専門機関への相談が必要です。

代償措置がなければ無条件で無効ですか

無条件ではありません。代償措置の有無は判断要素の一つとされていますが、それだけで結論が決まるものではありません。

転職エージェントに相談してもいいですか

事実の共有としては有効です。ただし法律の判断はエージェントの領域外なので、最終的な判断は専門機関に確認してください。

誓約書へのサインを退職時に求められたら

内容を読んでから判断してください。その場で署名を求められても、「持ち帰って確認します」と言って構いません。

10. まとめ:今週やる3つのこと

競業避止の論点で一番多い失敗は、書類を見ないまま口頭の説明で判断してしまうことです。

1つめ、入社時の書類を探す。自宅の書類ケース、入社時のメール、社内の人事システム。この3か所を1時間で確認します。

2つめ、見つからなければ人事に控えを請求する。「保管できていないため内容を確認したい」の一文で十分です。メール1通、5分。

3つめ、条項があったら期間・範囲・代償措置の3点をメモに書き出す。この3行があれば、転職先にも専門機関にも同じ説明ができます。

判断そのものは専門家の領域ですが、判断材料をそろえるところまでは自分でできます。そこを飛ばして内定を辞退しないでください。

なお、この記事は一般的な整理です。個別の契約内容や状況についての判断は、弁護士や労働局の相談窓口など専門機関に確認してください。

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この記事を書いた人

木戸 悠介(きど ゆうすけ)/なぜキャリア?運営者。

23歳で上場企業子会社に新卒入社し、飲食・宿泊・レジャー領域のメディア広告営業を担当。25歳で第二新卒として障がい福祉領域のSaaS企業へ転職し、営業から営業企画へ職種を変えた経験を持つ。2ヶ月で10社に応募し2社から内定。現在は自分の会社を経営している。